「同じ年の子が当たり前にできることを、うちの子はなぜかうまくできない」——体育の授業を前にして渋る我が子を見て、そう感じている保護者の方は少なくありません。運動の得意・不得意には幅広い個人差がありますが、苦手意識が強い子どもほど、無理に頑張らせることで自己肯定感が下がってしまうことがあります。大切なのは、克服を急ぐことではなく、その子の発達ペースに合わせた関わり方を見つけることです。 「「友達と遊べない」ASDの子どもに見られるコミュニケーションの特徴と家庭でできる具体的な関わり方」もあわせてご覧ください。
運動が苦手な子どもには、無理に克服させようとせず、発達段階に合った「遊びの中の運動」から始めることが最も効果的です。特にDCD(発達性協調運動障害)やADHDの特性がある子どもは、身体の動かし方や感覚処理に困難が生じやすく、専門的なアプローチが必要なケースもあります。小さな「できた」体験を積み重ねることで自己肯定感が高まり、運動そのものへの意欲につながっていきます。気になる場合は、発達支援の専門機関への相談も選択肢の一つです。 「ADHDの子どもへの接し方|親がやりがちなNG対応と今日から使える声かけのコツ」もあわせてご覧ください。
「やる気がない」ではなく「やりにくい」理由がある
子どもが運動を嫌がるとき、親はつい「気持ちの問題」と考えてしまいがちです。しかし実際には、身体の感覚処理や協調運動に困難を抱えているために「やりたくてもうまくできない」というケースが少なくありません。その代表的な理由として挙げられるのが、DCD(発達性協調運動障害)と、ADHDに伴う運動面の難しさです。
DCDとは何か、どんな困りごとが起きるか
DCD(Developmental Coordination Disorder:発達性協調運動障害)は、知的な遅れがないにもかかわらず、身体の協調的な動き——たとえばボールを投げてキャッチする、縄跳びを跳ぶ、ハサミを使うといった動作——が著しく難しい状態のことを指します。文部科学省の調査によれば、DCDは子どもの5〜6%程度に見られるとされており、決して珍しい特性ではありません。
DCDのある子どもは、頭では「こう動かしたい」と思っていても、脳からの指令がうまく身体に伝わらない感覚を抱えています。運動会の練習で何度繰り返してもできないという体験が積み重なると、「どうせ自分にはできない」という気持ちに直結してしまいます。早期に気づき、適切なサポートを始めることが大切です。
家庭でできる対応としては、動作を細かく分解して、一つひとつのステップをゆっくり一緒に練習することが助けになります。たとえばボールを投げる動作なら「まず持つ」「腕を後ろに引く」「前へ振る」と、連続した動作を一段階ずつに分けて確認していくイメージです。詳しくは「運動療育の重要性 | 発達凸凹の子どもたちに必要な運動とは?」で解説しています。
ADHDのある子どもがダンスや体操を苦手とする理由
ADHDの特性がある子どもが運動を苦手とする背景には、注意の持続や衝動のコントロールといった認知面の難しさが関係しています。ダンスや体操のように「動きを覚えて順番通りに繰り返す」課題は、ワーキングメモリへの負担が大きく、ADHDのある子どもには特に高いハードルになりやすいのです。
また、順番を待つことが求められるグループ活動や、ミスを笑われる経験が積み重なると、「また失敗した」という記憶が恐怖感として残り、次第に参加そのものを避けるようになっていきます。この状態を「やる気がない」と評価してしまうのは、子どもにとって非常に辛いことです。
ADHDのある子どもに向いているのは、ルールが少なくて体全体を使える活動です。ルールのシンプルな追いかけっこ、トランポリン遊び、大きなクッションを使った相撲ごっこなど、「今ここに集中する」だけで楽しめる運動遊びが、最初の一歩として有効です。ADHDのお子さんへの具体的な関わり方は「【発達障がい】グレーゾーンの子どもに必要な支援策とは?」もあわせてご参照ください。
発達段階に合った運動遊びを選ぶ視点
「この年齢ならこれができるはず」という一般的な目安はあくまで平均値であり、実際の子どもの発達は大きく幅があります。大切なのは「今その子が無理なくできること」を土台に、少しだけ挑戦できる環境を整えることです。
年齢別の遊び選びのヒント
1〜3歳ごろは、走る・転がる・よじ登るといった全身を使った粗大運動の時期です。公園の滑り台、段差の上り下り、マット上でのごろごろ転がりなど、日常的な遊びの中に多くの運動要素が含まれています。この時期は「上手にやらせよう」とするより、子どもが自分で試したいことを見守る姿勢が大切です。
4〜6歳ごろになると、投げる・跳ぶ・バランスをとるといった動作が発達します。鬼ごっこやリズム体操、大きなボールを転がして遊ぶなど、友達や親と一緒に体を動かす体験が豊かな刺激になります。ただし、この時期からグループ活動での比較や競争が生まれやすくなるため、「勝ち負けより楽しむこと」を大人が意識的に言葉にして伝えることが重要です。
小学校に上がる7〜9歳の時期は、自転車・水泳・チームスポーツと活動の幅が広がります。一方で「できる子・できない子」という差も目立ちやすくなるため、運動が苦手な子どもにとっては自信を失いやすい時期でもあります。習い事としてスポーツを選ぶ際には、競争より個人の成長を重視する環境かどうかを確認することが、選択のポイントになります。
家庭でできる運動遊びの工夫
特別な道具がなくても、日常の中に運動の要素を取り入れることができます。たとえば、買い物の帰りに「ここから家まで大股で歩いてみよう」と声をかけるだけで、バランス感覚や脚力のトレーニングになります。お風呂上がりのストレッチを親子で一緒に行うことも、身体の動かし方を楽しく学ぶ機会になります。
風船を使った「落とさないゲーム」は、手と目の協調動作を自然に促すうえ、失敗しても痛くなく大きな笑いが生まれるため、運動嫌いの子どもにも受け入れられやすい遊びです。大切なのは、親自身が楽しんでいる姿を見せることで、子どもが「やってみようかな」と感じるきっかけをつくること。プレッシャーなく体を動かす体験が、長い目で見た運動への親しみにつながっていきます。
自信を育てるための「声かけ」と「比べない」視点
子どもの運動への自信は、技術の上達より先に「やってよかった」という感情的な記憶から生まれます。親の言葉は、子どもがその体験をどう受け取るかに大きな影響を与えます。
効果的な声かけの実例
「なんでできないの」「もっとちゃんとやって」という言葉は、子どもを追い詰めてしまいます。一方で「さっきより遠くまで転がったね」「自分でやってみたのがえらかったよ」のように、過程や小さな変化に目を向けた言葉は、子どもが「やってみる価値がある」と感じる力になります。結果でなくプロセスをほめることが、挑戦する気持ちを育てます。
吹田市在住の保護者の方から聞いたエピソードがあります。お子さんは縄跳びが大の苦手で、体育の授業前日になると腹痛を訴えて休もうとすることが続いていました。そこで自宅で「縄を床に置いてその上を跳び越えるだけ」という超低ハードルの練習から始めたところ、「これなら跳べる!」という感覚をつかめたそうです。3週間後には縄を揺らして一回跳びができるようになり、授業を休みたがらなくなったとのことでした。「克服」より「一歩だけ進む」を積み重ねた好例です。
「他の子と比べない」が言葉以上に難しい理由
頭では「比べてはいけない」とわかっていても、参観日や運動会など他の子と並ぶ場面では、親としてどうしても視線がいってしまうのが正直なところではないでしょうか。比較は子どもに直接伝わらなくても、親のため息や表情からも伝わることがあります。
子どもの成長は、他の誰かとではなく「昨日の自分」と比べるものだという視点を、家庭の中で意識的に育てていくことが助けになります。「○○ちゃんはもうできてるのに」という言葉の代わりに、「先週よりも長く続けられたね」という観察を積み重ねてみてください。その小さな積み重ねが、子どもの自己肯定感を支える土台になります。
運動が苦手な子どもを支える専門的なアプローチ
家庭での工夫を続けても、「どうしても体の動かし方がわからない様子で困っている」「本人も辛そうで、集団活動を完全に避けてしまっている」という場合は、専門家の視点を借りることを検討してみてください。
発達支援施設・児童発達支援での運動療育
児童発達支援事業所や放課後等デイサービスでは、専門のスタッフが個々の特性に応じた運動プログラムを提供しています。感覚統合療法をベースにしたプログラムでは、触覚・固有感覚・前庭感覚などを丁寧に刺激しながら、身体のコントロール感覚を育てていきます。楽しい遊びを通じて行われるため、子どもが「療育されている」という感覚なく自然に取り組めることが多いのが特徴です。 「児童発達支援で何が受けられる?発達が気になる子どもへの支援内容をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
LaZo株式会社が運営する発達支援の現場でも、運動が苦手な子どもたちに対して「SMASPO」と呼ばれる運動療育プログラムを展開しています。ボール運動や飛び石などを使いながら、スモールステップで「できた!」という成功体験を積んでいく設計です。7歳のADHDの特性があるお子さんが、最初はトランポリンに乗ることも怖がっていたのが、半年後には自分から「もっとやりたい」と言うようになったケースもあります。
放課後等デイサービスについての詳しい情報は、「放課後等デイサービスとは?: 児童発達支援の重要性と役割」をご覧ください。
保育所等訪問支援・学校との連携
運動の苦手さが集団生活に影響している場合、家庭と専門機関だけでなく、園や学校との連携が重要になります。保育所等訪問支援という制度を利用すると、専門のスタッフが直接保育園や小学校に出向き、現場の先生と一緒に環境調整や支援方針を話し合うことができます。
たとえば「体育の授業中、一人だけ別のメニューに取り組めるような配慮」「跳び箱の台数を下げた段から始める」といった合理的配慮を学校側に伝えるための橋渡し役を、支援のプロが担ってくれる仕組みです。担任の先生に直接お願いするのが難しいと感じている場合も、支援者を間に挟むことで話し合いがスムーズになることがあります。
家庭と専門機関が連携するときに知っておきたいこと
専門機関への相談を考えたとき、「そんなに深刻なのか」「診断がつくのが怖い」と感じる方もいるかもしれません。しかし、相談することは診断を求めることとイコールではありません。「うちの子の運動の様子を専門家にみてもらいたい」という動機だけで、発達支援センターや小児科への相談の入り口として十分です。
相談できる窓口はどこか
市区町村が設置する子ども発達支援センター(名称は自治体によって異なります)は、発達や育ちに関するあらゆる相談の第一歩として利用できます。吹田市や豊中市など北摂エリアでは、各市の子育て支援担当窓口から専門機関につなげてもらうことも可能です。かかりつけの小児科医に「運動の発達が気になる」と伝えることで、適切な専門機関を紹介してもらえる場合もあります。 「ソーシャルスキルトレーニング:子どもが社会で輝くための第一歩」もあわせてご覧ください。
また、受給者証を取得することで、児童発達支援や放課後等デイサービスを利用した専門的なサポートを受けることができます。受給者証の申請については「療育手帳とは?その申請方法、メリット、等級評価について詳しく解説」に詳しい情報があります。
一人で抱え込まないための考え方
「もっとうまく対応できたら…」「私の育て方が間違っていたのかもしれない」と、子どもの困りごとを自分のせいにしてしまう保護者の方が多くいます。しかし、運動の発達には神経学的・感覚処理的な要因が大きく関わっており、親の働きかけだけで解決できることには自ずと限界があります。それは失敗でも放棄でもなく、子どもに必要なサポートの幅を広げることです。
「一人で解決しようとしない」こと自体が、子どもに最善を尽くすための選択です。
子どもの運動の苦手さに気づいて悩んでいるということ自体、すでにお子さんのことを深く見ている証拠です。専門家、学校、支援機関と「チームで支える」という感覚を持つことが、保護者自身の余裕にもつながります。発達が気になる子どもへの支援内容については「発達障害テスト: 症状と対策の理解するために」もあわせてご覧いただけます。
子どもの「好き」から運動へのドアを開く
運動全般が苦手でも、特定の動きや活動には興味を示すことがあります。その「好き」の入り口を大切にすることが、体を動かすことへの抵抗感を下げる近道になります。
得意なことを起点にした運動との出会い
ゲームやアニメが好きな子どもなら、好きなキャラクターの動きをまねてみるごっこ遊びが、身体を動かす最初のきっかけになることがあります。音楽が好きな子どもには、好きな曲に合わせて自由に動く「ダンスごっこ」が、技術を問わず体を動かす喜びを感じさせてくれます。
豊中市にお住まいの保護者の方は、恐竜好きのお子さんに「ティラノサウルスの歩き方をやってみよう」と声をかけたところ、それが大きな前傾姿勢でドシドシ歩くバランス練習になり、しだいに他の動物の動きにも興味が広がっていったと話してくれました。子どもの「好き」は、大人が想像する以上に強力な動機になります。
習い事を選ぶときのチェックポイント
運動の習い事を検討するとき、技術の上達よりも「楽しめる環境かどうか」を優先することが大切です。少人数制で一人ひとりに目が行き届く指導体制か、失敗や個人差を否定しない雰囲気があるか、子どものペースで進められるプログラムかどうかを、体験レッスンで確認してみてください。
| 確認ポイント | 理想的な環境の例 | 注意が必要な環境の例 |
|---|---|---|
| クラス人数 | 5〜8人の少人数制 | 20人以上で個別対応なし |
| 指導の姿勢 | できたことをほめ、失敗を次への糧にする | 競争やタイムを前面に出す |
| プログラムの柔軟性 | 個人のペースでステップアップできる | 全員が同じメニューを同じ速さで進める |
| 特性への理解 | 発達特性を知るスタッフがいる | 「やる気の問題」として対処する |
また、感覚過敏がある子どもにとっては、人が多い・音が大きい・着替えや触れ合いが多いといった環境自体がストレスになることがあります。事前にスクールに特性を伝え、配慮が可能かを確認しておくことが、長続きにつながります。感覚過敏に関する理解については「感覚過敏の理解と対処:日常生活や仕事に影響を及ぼす症状とは?」もご参照ください。
子どもが運動を苦手とする理由は一つではありません。発達の特性が関係していることもあれば、過去に受けた否定的な経験が影響していることもあります。どちらの場合も、今その子に合ったペースと環境を選ぶことが、長い目で見た「運動と友達になる」ための確かな道筋です。「うちの子に何が合うか」を一緒に探したいと感じたときは、ぜひ発達支援の専門機関に声をかけてみてください。SSTを通じた社会性の育ちについては「SSTで子どもの『お友達とのやり取り』はどう変わる?保護者が知っておきたい成長の見方」もあわせてご覧ください。
よくある質問
運動が苦手なだけで発達障がいの可能性を考える必要がありますか?
運動の苦手さだけで発達障がいと判断することはできません。ただし、DCD(発達性協調運動障害)のように、発達の特性が運動面の困難として現れることは実際にあります。「極端に体の動かし方が分からなそう」「日常生活にも支障が出ている」と感じる場合は、専門機関に相談することで、その子に合ったサポートの方向性が見えてきます。
何歳から運動の苦手さを「気になるサイン」として受け止めるべきですか?
発達の個人差は大きいため、年齢だけで判断することは難しいです。目安として、3〜4歳以降も転倒が多い、5〜6歳になってもジャンプや片足立ちが安定しない、小学校に入学してから体育で極端に困っているといった場合は、かかりつけ小児科や発達支援センターに相談するきっかけにしてください。
家庭での運動遊びを嫌がるときはどうすればいいですか?
嫌がるときは無理に誘わず、まず「何なら楽しそうか」を子どもの様子から探ることから始めてください。テレビを見ながらソファの上で跳ねるだけでも立派な運動です。親が先に楽しそうにしている姿を見せることで、子どもが「参加してみようかな」と感じることも多いです。
放課後等デイサービスの運動プログラムは、どんな子どもが対象ですか?
放課後等デイサービスは、障がいや発達の特性があり、受給者証を取得している就学児が対象です。運動の苦手さについても、専門スタッフによるアセスメントのうえ、個別のプログラムを組んでもらえます。まずは市区町村の窓口で受給者証の取得について相談することが最初のステップです。
学校の体育の授業で「合理的配慮」を求めることはできますか?
できます。2024年4月に施行された改正障害者差別解消法により、民間事業者も含めて合理的配慮の提供が義務化されました。学校にも同様の対応が求められており、「跳び箱の高さを下げる」「先に一人で練習できる時間を設ける」といった配慮を申し出ることは権利です。発達支援施設のスタッフや相談支援専門員に同席・橋渡しを頼むとスムーズに進むことがあります。
「運動療育」と「体操教室」の違いは何ですか?
体操教室は技術の習得や身体能力の向上を目的とする場合がほとんどですが、運動療育は発達の特性に応じた感覚統合や協調動作の発達を専門的に支援するプログラムです。スタッフが作業療法士や発達支援の専門家であること、個別のアセスメントをもとにプログラムを設計していることが、療育としての大きな特徴です。
子どもが「自分は運動が嫌い」と言ってしまったとき、どう対応すればいいですか?
まず「そうか、嫌いなんだね」とそのままの気持ちを受け止めることが大切です。「嫌い」という言葉の裏には「怖い」「失敗が恥ずかしい」「うまくできなくて悔しい」といった感情が隠れていることが多くあります。無理に好きにさせようとせず、「どんなところが嫌だと感じるの?」と掘り下げていくことで、子どもが安心して本音を話せる関係を育てていけます。


